
前回から引き続き、ホテルや旅館といった宿泊施設でのWhOを取り入れた提案をベースに、今回は年々増加するインバウンド観光客による需要や、地域の特色を取り入れた空間づくりが重要視される背景などを広義に捉え、“和〈JAPAN〉”をテーマにデザインをご紹介したいと思います。
一言で”和”といっても、和柄や和のモチーフのようなストレートな表現だけでなく、土地の印象を感性豊かに表現したデザインや、モダンな空間にも取り入れられるラインナップなど、広い意味で“日本”や“和”の空間づくりへのインスピレーションに繋がると嬉しいです。
また、前回同様インテリアの商品企画やコンサルティングを行うailescreation(エルクリエーション)の高田 真由美氏に監修いただき、WhOの壁紙を選定。海外インテリアのエッセンスも盛り込みながら、デザインに対するコメントの他、空間づくりのアイデアについても語っていただきました。
高田 真由美 Mayumi Takata / ailes creation, inc.
テキスタイルや壁紙を扱う輸入会社で商品企画とブランドマーケティングを12年間担当。ヨーロッパを中心とする展示会やメーカーを数多く訪問する。2013年エルクリエーション株式会社設立。海外最新インテリア情報の発信、商品開発コンサルティング、ブランドプロモーションエージェントほか、生地・壁紙・ラグ・照明などの商材提案を行う。ロロ・ピアーナ・インテリア、アレキサンダー・ラモントの輸入総代理店。
抽象的からグラフィカルな表現まで。日本らしさを印象づけるデザイン
人々の思いや願い、祈りが込められた和の伝統文様

着物や帯、陶器などに用いられてきた伝統文様はそれぞれに意味を持ちます。六角形に三角を組み合わせて麻の葉に見立てた「麻の葉/ CBWM023」は、丈夫でまっすぐに育つことから子供の成長を願い、産着にもよく用いられた、と言われています
2025年は現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称:アール・デコ博覧会)の開催から100年という記念の年であり、当時人気を博した日本の美術や工芸、そこからインスピレーションを受けたパターンや色が注目されています。和の伝統文様に見られる幾何学は以前より壁紙デザインとして人気がありますが、あらためて見直してみるとよいかもしれません。この写真では、幾何学のパターンは多少大きめですが、全体の印象に合わせた優しい色を使うことで空間に溶け込んでいます。
– PICK UP
左のように和紙の代表的な表情である“雲龍”のテクスチャーを「WAMONYO」に重ねて制作することができます。また、右のように日塗工・DIC・PANTONEの色品番から和紙のテクスチャーを重ねる「WASHI T003 – TEXTURES」もございます。お好きな色に仕立てることで、空間の統一感を演出いただけます。
国土の半数以上を山地が占める日本にとって、山の風景は親しみ慣れた情景にも

美術作家 佐々木愛による “山 / CRAS003”。他にも藍色のような深いブルーや墨のようなカラーも展開
この空間は当初「SPA空間へ繋がる廊下」をイメージして作ったものです。海外ホテルのSPAデザインでは、海や山などの自然のモチーフを手描きで大胆に描き、徹底してリラックスできる非日常空間が展開するのを頻繁に目にします。写真にある佐々木愛さんは自然を多く描き、リラックスしたい空間にぴったりです。
水墨画のように、無彩色とにじみで体現する“和”

アーティスト 川瀬知代による繊細なタッチで描かれた水彩のドローイング「ここは霧の森 / CRTK001」
水墨画のような描き方を現代風なデザインで描いた壁紙をベッドヘッドに使用しています。脇のテーブルランプのベースや壺に使われる優しい墨色が壁紙と呼応しバランスをとっています。

“PATTERNS”シリーズより、ダイナミックな滲みが特徴的な「SHADE / P072A」。豊富なカラーバリエーションから幅広い空間表現へ応用が可能
ロビーエリアの壁に大柄な絵を配置することが最近では一般的になり、海外のホテルではよく見られるデザイン手法となりました。
日本のホテルでは、ロビーエリアにあまり大胆すぎる絵を大きく壁に採用するのを躊躇するかもしれませんが、他のインテリアエレメントに調和する色柄であれば安心です。ここでは大胆な柄で日本の侘び寂びを表現して。
土や苔、岩といった自然の色合いやニュアンスを絵画的に取り入れる

ポーランド「Wall Art」のデザイン。金と黒という強い色も、擦れや滲みのような表情と相まって柔らかな印象を作り出した「Fog / WART015」
続き柄の大きなパターンを縦のラインで区切りながら施工する例です。襖や屏風に自然や生き物を描いた日本のいにしえの画家達の絵のエッセンスを思わせます。

「Moss / WART030」は、幾重にも重なった色彩が徐々に苔むしていった経年変化さえも感じさせる
同じく、ホテルの廊下に続き柄を縦のラインを残しながら使用したものです。長い廊下で使う続き柄では、空間に奥行きが感じられ、歩くにつれ絵画を楽しむことができます。ここで採用している「WALL ART」の壁紙はポーランドの会社ですが、繊細な感性による自然の筆致のデザインが多く揃っており、和空間にも合うおすすめがたくさんあります。
感性に訴える表現はアートとして部屋のアクセントに。パネルとしての展開も

ゴールドとブラックを用いたアーティスティックなデザイン。ベッド上はアメリカの壁紙ブランド「LOOK」が展開する「Ocean’s Edge / LKBC009」。奥の壁面を飾るのは、ポーランドの「Glory / WART018」
デジタルプリントの良さである自由でリピートのないパターンという特性を生かし、壁紙ではなくアートとして部屋のアクセントにWhOの壁紙を利用することも可能です。ホテルの客室に数多くのアートが必要な場合、柄違い、色違いの様々なアートを制作することができますが、ここでは和を感じるゴールドをポイントにした抽象的なアートが正面と右の壁に飾られています。
– PICK UP
WhOのデザインをもっと手軽にインテリアに。木枠に張りこんで、絵を飾るように壁を彩るウォールパネルです。壁紙として取り扱いのデザイン*からお好きなサイズでお選びいただけます。 *一部対応不可
「WhO WALLPANEL」詳細はこちら

アメリカの壁紙ブランド「LOOK」より、力強い墨のストロークが空間全体を印象づける「Eclipse / LKAS056」
同じくアートの仕様として、和室のベッドヘッド上部に設置されているのは、アメリカ・ダラスを拠点にコレクションを展開するLOOKによるものです。直線的な要素が多く使用される和の空間の中で、 墨が自由に滲み垂れる表現が全体の空気を和らげています。
伝統的な和紙や紙をモチーフにした表現など、柔らかなテクスチャーがほどよく溶け込む

創業371年の老舗和紙専門店「小津和紙」協力のもと、粉砕した廃棄予定の壁紙サンプルを混ぜ込み手漉きの和紙を制作。それをスキャニングしたエシカル発想のデザイン。 画像左:「PAPER SCRAPS / P117E」、画像右:「PAPER OMBRE / P118B」
廃棄予定のサンプルを粉砕し、和紙に混ぜた紋様をスキャンしてできたシリーズの壁紙です。ホテルデザインの要素に欠かせなくなってきたサスティナブルな視点も取り入れています。伝統的な手漉きから生まれたアイテムですが、グラデーション柄にすることで現代的なイメージとなっています。ここでは無地調の和紙シリーズを右側の壁に貼ってコーディネートしています。

空間デザイン目線の使いやすい“PATTERNS”シリーズより「PAPIER / P071N」は、紙のテクスチャーをダイナミックに感じるパターン
ベットのベース部分や窓の開口面などに大きな面の要素を持つ空間です。そこに自然の色であるグリーンと相性の良いカラーの壁紙を広い面積で使用し、ダイナミックに広がる要素と呼応させています。
自然のエッセンスを取り入れた表情豊かなデザイン

霧がかった針葉樹林を情緒的に表現した「Mori_Grey / WART029」。薄墨のタッチは日本画的にも見える
ポーランドのWall Artの描く森の光景ですが、日本の竹林を感じさせる静かな空気感を持っています。客室の壁面全体に縦向きのラインが強調された空間の中で、色のトーンを揃えて落ち着いたイメージを与えています。

「FALL / P102F」は、“MOVING WATER”をテーマに躍動する水のうねりやゆらぎをグラフィカルに表現
日本やその土地のイメージを空間のデザインに落とし込みたい時、必ずしも和がダイレクトに表現されてなくても良いのでは?と思いました。土地にある自然を抽象化したパターンとして、水の流れを幾何学のモチーフとして表現した空間イメージがこちらの写真です。
その他、自然のモチーフとして、竹を想起するようなデザインもあります。

画像左:「モノクロな網目模様 / CBRR009」、画像右:「Bamboo / LKOG005」
モノクロな網目模様 / CBRR009
Bamboo / LKOG005
地域の“らしさ”やその土地のモチーフをさまざまな角度から多彩に演出
その土地の魅力をクリエイターの目線で唯一無二のデザインへ昇華

クリエイターの紹介によって壁紙のデザインを生み出していく企画“CREATORS CIRCLE”にて、フォトグラファー Kana Kurataによる雨が降る前の瀬戸内を切り取った「moya / CRCC023」
ホテルをデザインする際に、立地の地域性からコンセプトを選ぶことが一般的です。WhOには日本の地域から生まれたデザインが多くライナップされています。ここでは、窓の外の風景の一部がベットヘッドに再現されたようなイメージが広がっています。

全国よりクリエイターを募り、その土地の滞在を通じて地域の魅力をデザインする企画より誕生。それぞれ港町ならではのモチーフが表現されているベッド背面の「伊豆下田(静岡県) – ユラユラ / CBLA002」と奥の壁の「伊豆下田(静岡県) – パッパ / CBLA003」
ターゲットする年齢層が若いホテルにも合う爽やかな色の2つの柄を、ベッドのヘッド側と奥の壁面にコーディネートして使用しました。

上士幌町に由来するアイヌ語の「シュー・オル・ペツ」(鍋を 漬ける川)から川をテーマに、太陽の光や町の先進的な取り組みを鮮やかに表現した「River / CBKD004」と、左右の壁面を彩るイタリアの「Motus 2 / SPGT049」
北海道上士幌町プロジェクトから生まれたこの壁紙は活力を強く感じるRiverという名前のデザインで、ホテルのロビーエリアにエネルギー溢れる絵画を設置した例です。両脇には、イタリアのSpaghetti Wall社の幾何学パターンを組み合わせし、柄+柄の空間を色でまとめています。
– PICK UP

北海道上士幌町で2023年夏に開催した「かみしほろデザインワークショップ」
WhOでは、その土地での滞在を通じて地域の特色や町の魅力をデザインに落とし込むワークショップを日本各地で開催。土地の雰囲気や人柄なども含めてクリエイターの目線で紡ぎ出される表情は、地域性を感じる唯一無二のデザインとなっています。
KAMISHIHORO(北海道上士幌町)
LivingAnywhere Commons(静岡県伊豆下田・山梨県八ヶ岳北杜・福島県会津磐梯)
日本各地の岩石を地質学の発想から壁紙のデザインへ

産総研の技術協力のもと、岩石の顕微鏡写真を壁紙のサイズまでスケールアップしたデザイン。こちらの「玄武岩 – 富士火山 / CBGM004」含め、古くは約3億年前に遡り、その土地の記憶がテクスチャーとして落とし込まれている
日本のさまざまな地域の岩石を顕微鏡で写真に撮って壁紙のパターンとした、ユニークなアイテムです。写真の空間では、岩石で使用されている色とベッドヘッドやクッションのカラーを合わせています。岩石のパターンがクローズアップされているため、岩石とは思えない個性的な文様となり、壁面にアートのような雰囲気を与えています。

同じく岩石の顕微鏡写真を用いたラインナップから白亜紀時代の「ざくろ石両雲母花崗岩 / CBGM003」
左側の壁紙は茨城県つくば市の岩石の写真です。石・タイルの硬質な印象の空間の中に、もう一つ岩石という硬い印象をプラスして組み合わせしています。今までほとんど知ることのなかった日本の岩石の色柄というものについてあらためて発見でき、しかもクローズアップされた岩石のデザインに新しさと個性が感じられます。

産総研の技術により日本各地の岩石から誕生した商品一覧はこちら
さまざまな日本の風景を独創的な観点で切り取り、非日常的な空間に

クリエイターからクリエイターへ紹介によってデザインのバトンを繋いでいく企画より、イラストレーター・グラフィックデザイナー いえだゆきなが表現する富士山「YUKINA IEDA – FUJI / CRCC021」
銭湯でもお馴染みの富士山の柄の両脇に無地を続け、横に長い壁一面に一つの絵を作り出しました。
また、左壁の柔らかな色が綺麗なグラデーションは、右壁のデザインから色を抽出したカスタマイズカラーです。WhOでは空間コンセプトに合わせて柄や色の調整が可能なので、オリジナルの空間が生まれます。
襖へクロスをあしらい、開放的でパノラミックな表現も

地域の滞在を通じて生まれたデザイン。会津磐梯の山々を背に、雪解けと共に季節の移り変わりを感じる作品「会津磐梯(福島県) – December 7 / CBLA006」
上の空間では、絵画的な会津磐梯の風景が広がっています。福島県出身の髙田和寛さんデザインの壁紙です。ホテルや旅館など宿泊施設のデザインを採用する場合、その土地出身やそこで活動する作家作品がアートで採用されるケースがあります。WhOにデザインを提供する作家さんの出身も全国さまざま。異なる場所から生まれたパーソナリティーによるデザインが揃っています。
〈ANOTHER IDEA〉
この襖には和柄である「エ霞」文様が張られています。一つ前の写真と同じお部屋ですが、イメージががらりと変わります。襖紙らしいパターンですが、大きめなリピートで新しさを出しています。

和の伝統文様「エ霞 EGASUMI / CBWM061」はカタカナの「エ」のように霞を表現した模様。形のないものをうまく文様化し、しばしば時間の経過や場所の区切りとして使われてきた。
– PICK UP

WhOには、デザイナー、アーティスト、イラストレーター、音楽家、写真家などジャンルを飛び越え、クリエイターたちが自由な発想で生み出していくシリーズ「CREATORS」があります。デザインそのものの表現以外でも、それぞれの出身地や活動地域などから、その土地に紐づけて空間に落とし込むこともできるのではないでしょうか。ぜひ作家さんの活動背景も含めてご覧ください。
アーバンな空間を印象づけたいときに。都市の写真から美しく仕立て上げられた作品

フォトグラファー兼レタッチャーの安藤瑠美は、リアルな都市の風景から画像処理によって情報を整理、新しく均整された景色へ仕立て上げる。「SEQUENCE / CRRA006」
写真家の安藤瑠美さん“TOKYO NUDE”の壁紙をホテルの小さな客室の壁一面にアレンジした例です。和的なデザインは自然の風景だけではありません。都市部らしい表現提案として、林立するビル群や、スピード感を感じさせるものなどもあるでしょう。ここでは、壁以外の空間要素にはクリーンで静かなイメージを使いバランスをとっています。
おわりに
ホテルデザインというと、伝統を重んじる和柄、地域に関連したデザインなどが重要な要素になりますが、なかでも、いかにそのホテルならではの独自性を表現できるかという点が求められると思います。WhOの商品の中には、色や大きさをはじめとし、ホテルにあったデザインに調整ができる点でニーズに応えることができ、さらに和的な表現のデザインが多く揃っています。今回の内容をインデックスがわりに、デザイン構成の情報ソースとしてご利用いただけましたら嬉しく思います。
― 本記事で紹介したデザイン
PATTERNS
PAPIER / P071N
SHADE / P072A
FALL / P102F
GRADATION 2 / P116(カスタマイズカラー)
PAPER OMBRE / P118B
CREATORS
山 / CRAS003 ― 佐々木愛
ここは霧の森 / CRTK001 ― 川瀬知代
YUKINA IEDA – FUJI / CRCC021
KANA KURATA – moya / CRCC023
SEQUENCE / CRRA006
COLLABORATIONS
伊豆下田(静岡県) – ユラユラ / CBLA002 ― Masashi KONDO
伊豆下田(静岡県) – パッパ / CBLA003 ― Masashi KONDO
会津磐梯(福島県) – December 7 / CBLA006 ― 髙田 和寛
River / CBKD004 ― Tomotsugu Nakamura
ざくろ石両雲母花崗岩 / CBGM003
玄武岩 – 富士火山 / CBGM004
麻の葉/ CBWM023
エ霞 EGASUMI / CBWM061
LOOK
Eclipse / LKAS056
Ocean’s Edge / LKBC009
Wall Art
Fog / WART015
Glory / WART018
Mori_Grey / WART029
Moss / WART030
Spaghetti Wall
Motus 2 / SPGT049
■前回記事、サステナブルを表現したデザインをご紹介する「18 Ideas for Sustainable design」はこちら