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佐々木 愛 × graf 服部 滋樹 インタビュー

2020.09.04
Journal
佐々木 愛 × graf 服部 滋樹 インタビュー

WhO CREATORS INTERVIEW – コロナ禍で感じる「絵画こそ旅」

 

アーティスト:佐々木愛/美術作家
インタビュアー:服部滋樹/graf代表・WhOクリエイティブディレクター

 

佐々木愛さんの壁紙が新たに3柄リリースされます。新型コロナウイルスによる自粛が始まると同時に制作が始まった今回の柄、環境が変化し室内で過ごす時間の多くなった状況の中で、どのような空間を想像し、壁紙として描いたのでしょうか?京都・太秦のアトリエにてお話しを伺いました。

3階作業場。秋の展示に向けて大型のパネルを制作中。

家に居ても、旅を感じる空間

 

服部滋樹(以下、服部):今回、佐々木さんにはこれまで作ってもらっていたラインナップを参考に、制作してもらったけどどうでしたか?

 

佐々木愛(以下、佐々木):元々前に作った山をモチーフにした柄があって、その柄を空間に合わせて調整したいという依頼がWhOさんから来ました。その時はお任せしたんですが、もし次の機会があれば新しい図案を描きたいですって話していたんです。それなら新しい柄作りましょうって言ってくれたのがちょうど自粛期間中でした。家にいる時間も長くて、そういうのをテーマで作れたらいいなというやりとりから今回の柄を考えました。

 

服部:それで山と海と森の柄に。

 

佐々木:最初は山を描こうと思っていたけど、好きなものを描いてくださいと言われたので、元々私が持っている「旅」をテーマにして、家にいても旅を感じることができたらいいなと思い、森、海・ヨット、山・馬を描きました。

 

服部:今回の森とかは子供部屋とかによく採用されるんじゃないかなと思っていて

 

佐々木:去年ぐらいに幼稚園の壁画をやってほしいって依頼があったんです。でも制作期間が厳しかったので壁紙も作っていることを伝えたら、それが採用されました。壁紙の方がリーズナブルで施工期間も短くて、保育園も壁紙だと張り替えられるので、そっちの方がいいなと思って。そのことがきっかけで、これまで同系色が多かったんですけど、次作るならカラフルなものがあってもいいなと思って制作しました。

 

服部:いいですね。この森の柄も選ばれることが増えて、別のカラフルな色味も見て見たい人が増えそうですね。

 

佐々木:少し話は変わりますけど、前に滋賀県多賀町の緞帳を作ったんです。建築家の方から、私が白いレリーフの作品を制作しているので白のデザインのイメージを依頼されました。でも緞帳は華やかな方がいいと思っていて。最近はモノトーンで現代的な色合いの緞帳も多いそうで、でもそうじゃなくて原色でビビットなものにしたいと提案したら、建築家の人も賛成してくださって、実現しました。大きな華やかな緞帳を見て、空間にたくさん色があるのもいいなと思ったので、今回の壁紙もカラフルで楽しく、色彩がきれいなものにしたいなと思いました。

 

服部:すごいビビットですね。この時のモチーフは町の風景?

 

佐々木:これは全部多賀町にいる動植物で、町の人に思い入れのある動植物をヒアリングして教えてもらいました。他にも三本杉の昔話があったりして、それをテーマにしていたりもします。席に座って緞帳の模様を見て、「あの鳥は〜ですね」なんて隣の人と喋れるきっかけになる、そんな物語性があればいいなと思って描きました。

https://www.sasakiai.com/work/1456/

自粛の中での制作

 

服部:今回コロナの影響で家の中で使うものをより意識して、佐々木さんにお願いしたじゃないですか?コロナ後のおうちの時間の使い方とか、家にいる時間が長いから、森の中にいけないとか、外にでられない人たち多いと思うんですけど

 

佐々木:個人的な話になりますが、ちょうどコロナの期間中に家族の入院で病院に頻繁に行くことがありました。その時思ったのが最後に見る景色が、今自分が過ごしている空間になるかもしれないんだな、そして生まれた時に最初に目にする空間かもしれないのかと。それってすごく重要なことだなと。特に小さい子のことを考えると、今はあまり外に出られなくて、ほんとは外で遊びたい時期なのに、家でずっといなきゃいけないかもしれない。感受性が高い時期に、ずっといる空間がどんな場所か気になりますね。

 

服部:僕も最近子育てするようになって、子どもの感受性を育てるのにシュタイナーとか学ぶようになったんですよ。シュタイナーは人間の感覚は5感じゃなくて12感あるっていうのを特に言っていて。

 

佐々木:私もシュタイナーの研究をしている画家の絵画教室に通っていたんです。当時はあまり理解していなくて、近所にあるからって理由で幼稚園ぐらいから高校まで通っていました。それから、大学の時に建築科の研修旅行で北欧に行くことがあって、訪問先のシュタイナーの学校を見学した時に、見た授業が幼い頃に教室で遊びながら行っていたことと同じで、そこで初めて絵画教室で学んでいたことを自覚しました。

 

服部:そこに価値があるってみんな何となく分かっていると思っていて、例えば香りを線で表現してくださいとか、今の空気感を色にしてくださいとか。なんとなく感じ取っている見えない感覚があって、それがどういう場所で育まれているのかっていうのを考えたら、家にいる時間が長いからその中で感覚が開いてくるとかがあると思うんですよ。

 

佐々木:やっぱり色で音を感じたり、音を聞いた時に風景が浮かんだりとか、絵を描いている時もそういうふうにありたいなと思っています。今までの柄はもう少しカチッとしたもの描いていたんです。でももっとラフスケッチのような状態で完成させたいなと思ったので、よく見てもらうとわかりますが、かなりゆるいタッチにしています。それぐらいの方が、見た人が入り込める余地があると思っていて。

 

服部:限定しない書き方というか。余白を作っておくことで想像が広がっていくイメージですね。

 

佐々木:海の絵は岩に草が生えているんですけど、はっきりした形にはしていません。波とかもニョロニョロしたものがいっぱいあるな、というぐらいに描きました。小さい子が見ても、大人が見ても、リズムが気になるというかそういう風にしていきたいなと。

 

服部:これ描いた人の筆跡が分かるし、ストロークもこう描いているんだっていうのが分かるようなゆるい手書き感がいいですね。これはどんなところで使って欲しいというイメージはあったんですか?

 

佐々木:どんな空間になるか分からないけど、狭い空間にあっても圧迫しないものという事と、明るいものにしたいというのがありました。なんとなく家の壁紙となるとシックなものになる傾向があるじゃないですか?なので、意外にカラフルなものでも、無理のない色の組み合わせだったら居心地が良いっていうのは意識しました。

作る環境の変化

 

服部:今お邪魔しているアトリエは何年前から使っているの?

 

佐々木:3-4年前ぐらいかな。それまではレジデンスが多くて現地制作をずっとやっていたので。

 

服部:レジデンスや緞帳の時はリサーチとかインタビューするとか言っていたけど、こういったアトリエがある状況は?この場所はひとつの自分の部屋と見立てて考えて、書き方、描きやすさみたいなものは変わりますか?

 

佐々木:もともとは絵を描いていて、でも壁画が面白くなったから割と続けていて、その間は絵をあまり描いてなかったんです。でもいつか絵画には戻って行こうとは思っていました。絵画になると何ヶ月も時間が必要だから、この場所を持っているって感じですね。白い壁画のイメージが強いので、カラフルな絵も描いているんですね?とか時々言われたりもしますね。

 

服部:前は白の素材の人というイメージだったけど、今は絵画もやっているしアトリエに来てみたら、彫刻もやっている。

家や馬、植物などのモチーフを浮き彫りに。

 

佐々木:これは実家で父の介護を母と二人でしていた時期にあんまり外に出られなくなってしまって、私自身も制作ができるまとまった時間は持てないし、母と家で何かできるかなと思って始めたのがきっかけです。もともと母は木彫り作家だったので、いいかなと。私が大体の形を彫って、最後の仕上げをちょっと母にやってもらい、そのあと着色して仕上げるという。

 

服部:それで木彫を!いい話ですね。

 

佐々木:母も久しぶりで楽しかったみたいです。最近では新しい作品ないの?と聞いてきます。母はプロだったのでかなり上手で綺麗に仕上げてくれるんです。あんまりきれいにしちゃうので、私らしさが消えない程度に頼んでいます。

 

服部:うちも息子が1歳ぐらいになったら、僕が集めてきた器を40枚ぐらい割っちゃって…今までの思い出がーってなっていたんですけど、それを不憫に思った母が全部金継ぎしに来てくれるって言っていて。物をひとつ介するだけでこんなにもコミュニケーションが取りやすくなるんだなと。それで考えると、今回リリースする柄についても、輪郭線を描かずにふわっと書くみたいなことって、見ている人にバトンを渡す感じになりますよね。届いたお客さんが書き加えるということができたりするんじゃないか?と思って。例えば、森の中にここにフクロウいるかも!とか描き出してくれたら嬉しいです。書いたものとか見てみたいですよね。

 

佐々木:猫がいるかもとか、見てみたいですね。緞帳も壁紙もそうだし、大阪国際空港のコミッションワークの制作も、ぼんやりと若い頃からやりたいと思っていたことでした。誰のものでもなく、みんなが自由に見ることができて、作者も誰かわからないけど、みんなが知っている。みたいなものが好きで。だからこそ空間に馴染むものになればと意識しました。

 

服部:有名な作家のものじゃなくとも。

 

佐々木:そうです。毎日通っていて見ているけど、記憶のどこかに残っているものを作りたいなと思っていたので、壁紙もっとやりたいですね

コロナ禍での過ごし方

 

服部:最後にみんなコロナで家にいるけど、メッセージなどありますか?

 

佐々木:今は落ち着いてゆっくりモノを見ることができる時かなと。だから、絵画ってすごい世界だと改めて思います。現実に遠い場所に行けなくても絵に描くことでどこにでも行ける。気持ち一つで山に行けたり海に行ったりできる。鉛筆1本でできる重力もない自由な世界です。自分で描いてもいいし、見るだけでもいい。それをもっと楽しめたらいいんじゃないかなと思っています。


佐々木愛/美術作家

人の記憶と現実世界との間にある風景をテーマに作品を制作発表している。中でも旅先の風景を元にイメージした砂糖によるレリーフ作品は、インスタレーション作品として各地で発表している。青森、韓国、ニュージーランド等のアーティストインレジデンスに積極的に参加しているほか、2010年ポーラ美術振興財団 在外研修生としてオーストラリアに滞在。2014年個展「Four Songs」ベルナール・ビュフェ美術館(静岡)など、展覧会多数。10月からは東京都庭園美術館「生命の庭―8人の現代作家が見つけた小宇宙」に参加予定。

https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/201017-210112_GardenOfLife.html


Forest / CRAS031 美術作家 佐々木愛

服部滋樹

1970年大阪生まれ。graf代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。WhOのクリエイティブディレクションを担当。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップやデザイン会社を経て、1998年にgraf設立。建築、インテリアなどにかかわるデザインや、ブランディングディレクションなどを手がけ、近年では産地再生などの地域活動までその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。


壁紙ブランドWhOは、2020年9月4日(金)より佐々木愛の新柄をリリース。

 

 

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