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ニュース - 壁紙WhO

NOSIGNER代表 太刀川英輔 × graf 服部 滋樹 インタビュー

2021.09.01
Journal

WhO CREATORS INTERVIEW – 「Nature of Paper」制作背景

デザイナー:太刀川英輔/NOSIGNER代表
インタビュアー:服部滋樹/graf代表・WhOクリエイティブディレクター

 

WhOの『CREATORS』シリーズに新たにNOSIGNERが参画し、壁紙8点がリリースされました。「Nature of Paper」と題した今回のシリーズ。折る、曲げる、燃やす、濡らす、破る、など、紙に起こる様々な現象に対して、実験を繰り返し生まれたデザイン。着想からデザインに至るまで、また、その思考プロセスについて、横浜のスタジオにて伺いました。

紙にとっての自然の造形、形態、現象

 

服部滋樹(以下、服部):WhOでは、他の壁紙メーカーではやらなかった大胆な大柄や、平面デザインにはとどまらない展開、さらには空間の中にアートやデザインの拡張性を拡げるような取り組みなど、壁紙にはとどまらない、空間性をコントロールするデザインを展開してきた。今回NOSIGNERにデザインをお願いしたところ……驚きのアイデアが出てきましたね。紙の中に包まれるようなプラン。どうしてこのアイデアに至ったのか、経緯を聞かせてください。

太刀川英輔(以下、太刀川):壁紙のバックグラウンドを考えて、観察してみると、壁紙は紙ではないものを印刷されていたり、テクスチャーにしていたりして、その多くが『布』の真似をしていることに気づきました。他にはレンガ柄、タイル柄、コンクリート柄……こういったものが多い背景って、当たり前だけど、それ自体が建築の材料だからですよね。

そこから考えてみると、僕らの生活環境って紙に包まれているんだな、と。そんなことを考えながら、紙であるところの壁紙を見ると、紙のスタイルをしていない……紙的に無念!

 

服部:確かに紙に包まれてる。。。向きあってくれたんだね。「紙想い」な感じ。(笑)

 

太刀川:紙が紙の姿をしていない。「そうだったね、おまえ紙だったね」というのが発想のヒントになっています。

紙は、古代エジプトのパピルスだった時代から、ずっと色々なカタチで使われていて、紙自体が持っている美しさとか、紙自体がどういった用法で使われてきたか、というのは様々な発展をしてきている。その中に、『紙をどのように加工するか』という方法もいろいろなものがあるじゃないですか。破るとか焼くとか。破れるように設計された切手であったり、焚き火の火種みたいなものであったり。パンチで抜かれるとか、折り紙として折るとかもそう。

今回のWhOの取り組みでは、そのカタチをそのまま壁紙にするというよりは、紙本来の姿をもう一度写し取って、イメージにして、デザインにする。紙の美しさをそのまま壁面に定着させて、「俺、紙だったぜ」とか、「俺の美しさはこんなもんじゃないぞ」と思ってくれればいいなと。

 

服部:確かに。思ってくれそうですね(笑)意識も変わっていくね。

 

太刀川:そんな妄想がひろがりました。そんなふうに紙について考えたことが無かった。「紙にとっての自然な造形、形態、現象っていったい何だろう」ということを考えてみると、やっぱり自然な紙って、綺麗なんじゃないかと。その現象のまま壁紙をデザインしてみると、紙っぽいまま素敵、というデザインが出来るんじゃないかと思い、それに「Nature of Paper」という名前を付けました。

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太刀川:紙にとって自然な状態を目指してみると、ある意味ではWhOの手法だからできる、究極の『「壁」「紙」』というものが出来たら面白いんじゃないかと考えました。

しかもそれは、アブストラクトな表現になるので、インテリアを邪魔しないんじゃないか。きっと立体感とかテクスチャーとか、そういったものがデザインされた壁紙って、インテリアデザインとして、綺麗な造形になるのではないか、と考えて、まずは「やってみましょう!」という。

歴史から紐解けば、紙にくるまれて過ごしてきた日本家屋ですよ。襖も障子もそうだし、こんなに紙に囲まれていたのってアジアだけなんじゃないかと。そう考えると、紙が持っている建築的な美しさみたいなものって、割とフィットするような気がしました。

 

服部:過去無いんじゃないかな。紙だけの印影で出来上がっている壁紙って。切り絵のような表現はあったかも知れないけど、紙その物の性質を捉える事って、あまり見たことないと思う。

 

太刀川:それをやってみると、面白いのでは。ということで紙を使っていろいろ実験をしてみました。

その実験をお見せしたいと思います。本当にいろいろなことをやってみたので……

 

太刀川:例えば、折るだけでも、よく見ると紙のテクスチャーのザラザラが見えてくる。クシャクシャにすると、いろいろな密度が現われたり。ランダムに折るとかもカッコよくなりそう。

 

服部:どこを切り取って拡大するか、とか。そのあたりのコントロールで面白くなりそう。

 

太刀川:実験を進めていくと感性的なセンスも求められますね。というのも、折るにしても、斜めとか、だんだん小さくするとか。テクスチャーめいたものを顕在化させる手法はたくさんある。

折り方ひとつでカッコよくなる。角度でも印影の出方が変わるし、皴の伸ばし方ひとつで変化したり。いろいろ試してみて、NOSIGNERなりのベストにたどり着きたいと考えました。

服部:紙とはいえ、建築的に構成できるというのは良いと思いますね。

 

太刀川:ランダムにいくつも作っていって、「これは追い甲斐があるよね」というもののクオリティを探求して、ちょうど良いものが残るといいな、と。なにが空間に似合うのか分からなかったので、とにかくいろいろ試してみました。

 

服部:あまり白基調の壁紙デザインとして無いよね。紙が折られて、しかも手癖が残る感じが凄くいいなと思います。まずはシリーズとして、全部白でもいいのではないかな。

 

太刀川:全部白で。そして、紙の性質に特化したデザインで進めましょうか。

 

太刀川:「Nature of Paper」のコンセプトを考えている時に、「これは系統樹が書けるな」と思いました。『折る>ランダム>持続的』とか、『皴>細かく……』とか。それが結構楽しいな、と。それをワークショップの題材にして、じゃあ「皴でもっと別の事できないか」とか。「他の分岐ない?」とか試していくと面白いですね。

 

服部:一緒に作りたくなってくる!それデザイン教育だね、基礎教育。子供と一緒にワークショップとかやりたいね。

 

太刀川:すべての作品を対応するのは大変かもしれないけれど、そのまま壁紙にしてくれる、とかね。うれしいですね。

 

服部:おれ帰ったらやろう。息子と。だから「Nature」なんだよね、系統樹ができるってことはね。

 

太刀川:まずは僕らが見つけた中でいい感じのクオリティのものをリリースさせていただいて、今後はワークショップとか別の手法でデザインの追加展開をしていけたら。毎年8柄ずつ、とか増やしていったら面白いですね。

 

紙本来の根源を辿る思考プロセス

 

服部:最後聞きたいのですが……NOSIGNERは、いつもこのような思考のプロセスを踏んでいるのですか。

 

太刀川:そうですね、いつもこんな感じです。僕は、創造性の進化をずっと個人研究しています。生物の進化と発明の進化のプロセスってどう似ているんだろう、という考え方を「進化思考」と呼んで、研究したり教えたりしています。だから今回でいうと、「紙の系統に戻る」こと、という考え方で出来ています。

 

服部:進化論で考えると、結局、対応できたものしか残らないじゃないですか、自然のなかでも。『紙の適応』ってどのような進化を遂げているんだろうね。

 

太刀川:いろんな考え方が出来ますよ。進化というのは、変異によって毎回違うものが出来ることと、それがいろんな選択圧で適応することが、交互に繰り返されると、勝手にデザインされる仕組みです。今回で言うと“だから僕らは紙を変異させ続けている“わけです。

一つのものが出来て終わりじゃなくて、それを元にいろんなことをする人たちが出てくる。紙もクラッシュされたりカットされたりして、また別の性質が発露されていく。例えば「たくさんちぎると火種になる」とか「こうゆう風に作ると上に文字を書きやすい」とか。いろんな性質がトライアルによって出てくることが、発明でもあるし、今トライアルしていることと一致してきます。

 

服部:その思考すごいな、と思うのは、その思考プロセスって最初の根源まで至らないと、進化の形態を辿れないじゃないですか。

 

太刀川:紙の「種の起源」みたいな感じで探求できると面白いですよね。

服部:そうそう。毎回そのように根源にまで立ち返る作業はやってるのでしょうか?

 

太刀川:うーん、やっているつもりではあります。実は手段は変わっても目的はずっと変わらないんですよね。例えば紙の目的に注目してみると、「情報をそこに定着させ、誰かに伝える」というメディアとしての目的が特に強いのが紙だけど、その目的自体は、木の皮などに文字を書いていた時代とか――

 

服部:石とかね。

 

太刀川:そうそう、石とかに掘る石板とかね。その時期からずっと目的は変わっていない。僕らは記憶力が足りないから、“記憶できない”ということに対して、“記録したい”という、本望的な欲求があり、そのために紙が役立ってきたんですよね。次に紙に代わる技術が出る時、たとえそれが電子ペーパーでもディスプレイでも、技術は変わるし、方法も全然変わるんだけど –

 

服部:やっていることは変わらない。

 

太刀川:そう。目的は変わらない、という。今回は壁紙なので、記録という要素は入っていなのだけれど、それでもその中で、紙の自然を探求する、というトライアルをやっています。

 

服部:単純に、「紙」という話ではなくて、やはり凹凸があるから当然、光を捉えるじゃないですか。影と光を生む。だからおそらく、「紙」イコール「光と影をどのようにコントロールするか」というのが、セットで付いてくる。メディアではないけれども、その根源から発想されている相手というのは、光と影かなというようにも感じられるので、そこも根源だなと思いました。

 

太刀川:そっち側の根源が重要になってきているのかもしれないですね。紙は、物理じゃなくても情報が記録できるようになったから、“風合い”とか“質感”とか。どの印刷の方法でも同じ情報は伝えられるのだけれども、『活版を強めの圧で押したときの凸凹が好き』というのは完全にテクスチャーの話ですからね。いま、紙が提供できる価値ってそうゆうことなんでしょうね、きっと。その紙自体の自然な風合いとか。それが持っている自然の性質を愛でているところがあるような気がします。

紙のあるべき姿をデザインに落とし込んだ「Nature of Paper」。深い思考プロセスとトライアルが垣間見え、多様な展開を感じさせるインタビューとなりました。今後のNOSIGNERとの展開もご期待ください。

 

 

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太刀川英輔   NOSIGNER代表 / JIDA理事長 / 進化思考家 / デザインストラテジスト / 慶應義塾大学特別招聘准教授

創造性を生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、様々なセクターの中に美しい未来をつくる変革者を育てることで、人の創造性の更新を目指す広義のデザイナー。デザインで美しい未来をつくること(実践:社会設計)、自然から学ぶ創造性教育で変革者を育てること(理念:進化思考)を軸に活動を続ける。プロダクト、グラフィック、建築などの領域を越え、次世代エネルギー、地域活性、SDGsなどを扱う数々のプロジェクトで総合的な戦略を描き、成功に導く。グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞他、100以上の国際賞を受賞。DFAA(Design for Asia Awards)、WAF(World Architecture Festival)等の審査委員を歴任。主なプロジェクトに、OLIVE、東京防災、PANDAID、山本山、横浜DeNAベイスターズ、YOXO、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。著書に『進化思考』(海士の風、2021年)、『デザインと革新』(パイ インターナショナル、2016年)がある。https://nosigner.com/


服部滋樹

1970年大阪生まれ。graf代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。WhOのクリエイティブディレクションを担当。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップやデザイン会社を経て、1998年にgraf設立。建築、インテリアなどにかかわるデザインや、ブランディングディレクションなどを手がけ、近年では産地再生などの地域活動までその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

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